自律神経機能失調(前編)
- 2022年10月27日
- 疾病関連
『思春期に好発する自律神経機能の異常』
秋も深まって参りました。皆さんは心身ともに健やかにお過ごしでしょうか?久しぶりのブログ更新となりますが、今回は2回に分けて、ブログを読んで下さっている読者様のお子様世代によく見られる、起立性調節障害という病気について取り上げてみたいと思います。
皆さんのお子さんが以下の症状を訴えられたことはありませんか?
“立ちくらみがする”“朝起きるのがつらい”“午前中に倦怠感が強く、午後になると元気が出てくる”“動悸がしている”“頭やお腹が痛い”
これらの症状は、思春期に起こりやすい疾病:起立性調節障害(OD)が関係しているかもしれません。
この疾患は成長期のお子さんであれば、どなたにも起こり得ることをまず理解しておく必要があります。日本学校保健会が実施した平成22年度の児童生徒の健康状態サーベイランス調査では「立ちくらみやめまい」などのOD関連症状があると答えたお子さんは、小学校高学年では約3%ほどでしたが、中学生になると約20%に増えていくことが報告されています。
小学校高学年から中学生にかけての時期というのは、急激な身体的発育や声変わりなどの第二次性徴の時期に一致します。身体は上へ上へと伸びていくにも関わらず、状況に応じて血圧や心拍の調整をする司令塔として、大役を任っている自律神経は、それ自体の成長が他の器官の成長に追いついておらず、非常にアンバランスな状態になっているのです。
本邦においてこの疾病は、昭和30年頃から子供達を対象に研究されてきましたが、欧米では宇宙研究の観点から研究が進められて来ました。宇宙飛行士が地球に帰還すると、起立耐性が悪くなりますが、このメカニズムの解明のため、研究が進められたきたということです。
<起立性調節障害(OD)のメカニズム>
人が起立しますと血液は重力により下半身に移動します。移動した血液の圧力で血管は押し広げられ血圧が低下します。また下半身に血液が貯留するため、心臓に戻る血液量が減少します。健常者では、ここで代償機構(変化や影響をより小さくするために起こる反応)が作動し、交感神経から昇圧ホルモンが分泌されます。すると血管が収縮し、血圧を上げようとします。ところがODでは、起立直後すぐに活発化するはずの交感神経がなかなか作動せず、また循環血漿流量も少ないことと相まって、血圧が低下したままになります。
<ODの疫学>
ODは軽症例を含めると、小学生の約5%、中学生の約10%。重症は約1%と言われています。ODの子供たちには、起立時に血圧がひどく低下して脳貧血を起こす子もいれば、血圧に異常を認めない子もいます。男女比は女性の方が多く、男性の約2倍であり、患者さんの約半数に遺伝傾向があると言われています。
<その他関連する因子は?>
心理学的側面から見ていきますと、ODの子供達は、過剰適応しようとする性格や、他人に気遣いをして心理的ストレスをためやすい傾向が強いようです。尚不登校の約3-4割にODが併存しています。
<ODの診断>
11の症状
1.立ちくらみやめまい 2.起立時の気分不良や失神 3.浴時や嫌なことで気分不良4.動悸や息切れ 5.朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
6.顔色が青白い7.食欲不振 8.腹痛 9.倦怠感 10.頭痛 11.乗り物酔い
上記症状のうち3つ以上が当てはまるか、2つ以上でも非常に疑わしい場合に“新起立試験”と呼ばれる検査を行います。次回後編でODの病型と治療について詳しく見ていきます。