町田駅前内科クリニック

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新型コロナウイルスのワクチンと治療薬の開発状況について


皆さんこんにちは。

先日、新型コロナウイルスの感染者増加を受け、国内全域に緊急事態宣言が発令されました。休業要請や外出自粛など、終わりの見えない闘いに不安を抱えている方も多くいることと思います。コロナ疲れ・自粛疲れといった肉体的・精神的ストレスを感じている方が、今はほとんどかと思います。現状として「医療崩壊は起きているのか」「感染して重症化するのが怖い」「早くワクチンはできないのか」等、多くの不安の声が上がっています。今日はその中のワクチン・治療薬開発の状況について、当院の院内スタッフである今田有香(こんた ゆか)さんが、国内文献を中心にまとめて僕に送ってきてくれました。とても勉強になりましたので、せっかくですので当ブログでも紹介しておきたいと思います。

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今田 有香リポート

さてみなさんは、まずそもそも薬ができるのに、いったいどのくらいの期間や費用を要し、またどういった過程を踏む必要があるのかご存じでしょうか?新薬が開発されるには、基礎研究→非臨床試験→臨床試験(治験)→承認要請・製造販売→製造販売後調査という6つの過程を終える必要があり、また3つ目の臨床試験においては、さらに第Ⅰ相試験~第Ⅲ相試験という3つの段階を踏む必要があります。これらすべての過程を経て、実用化に至るまでに、通常10年以上もの長い年月と約200~300億円もの費用がかかるといわれています。このように、薬が開発され私たちが安全に使えるようになるまでには、これほどの地道な試験や調査がなされているということ、加えてこれほどの期間と費用が必要だということがわかります。新型コロナウイルスの感染者が増えている今、ワクチンや治療薬を早く開発してほしいと願う方も多くいることでしょう。今現在、ワクチンや治療薬の開発に取り組む企業が数多く存在し、WHOによると、世界各国で開発が進んでいる新型コロナウイルスワクチンは約70種類以上にも及ぶと発表されています。このうち先ほど説明しました臨床試験という段階を開始した企業は、数えられる程度しかありません。臨床試験というのは人における試験のことをいい、簡単に説明しますと、第Ⅰ相試験では健康な人を対象に、副作用などの安全性や体内での薬の吸収率・薬が体外に排泄されるまでの時間(薬物動態)を調べます。続いて第Ⅱ相試験では少数の患者さんを対象にした有効性や投与量などの使い方、そして第Ⅲ相試験で、多数の患者さんを対象に第Ⅱ相試験で得た結果をもとに安全性・有効性・使い方の最終確認を行い、加えて既に市販されている薬と比較するというものです。そしてこれらの試験を経て良い結果を示したものだけが最終的に認可を得ることができるということです。

ではこのことを踏まえた上で、本日の本題に入りたいと思います。ワクチンにおいてはさきほど説明しました臨床試験というものに着手したもの、また治療薬においては今最も関心が高まっているものを紹介していきます。

まずワクチンの1つ目は、アメリカの国立衛生研究所(NIH)と、バイオ医薬の大手企業モデルナ社が協力開発した「mRNA-1273」というmRNAワクチンです。mRNAワクチンとは、病原体のタンパク質(生物を構成する物質)をつくり出すmRNAを体内に直接投与し、細胞内で抗原タンパク質をつくらせ免疫反応を強力に誘導する(抗体産生を促す)ものです。従来のワクチンは、ウイルスを化学的に処理し弱毒化あるいは無毒化してつくられていますが、mRNAワクチンはそもそもの病原体や毒素(ウイルス)を使用しないことから、不活性化ウイルスをつくり培養する必要がないため、開発・製造時間を大幅に短縮することができるのです。また容易に抗原をつくり変えることができる、そして安全性も高いという利点があり新しいタイプのワクチンであることから、今世界各国からの注目を集めています。このワクチンの第Ⅰ相臨床試験が3月16日に開始され、世界で最も速い臨床試験開始となりました。しかし、開発・製造期間を大幅に短縮できると言っても、実用化までにはおよそ1年半はかかると見込まれているようです。

2つ目は、アメリカのイノビオ・ファーマシューティカルズが開発した「INO-4800」というDNAワクチンです。DNAワクチンとは、遺伝子ワクチンとも呼ばれ、病原体を構成する成分の設計図であるDNAをワクチンにしたものです。DNAワクチンを接種すると、体内で偽のスパイク(ウイルスの遺伝子からつくられたタンパク質)がつくられ、免疫反応が引き起こされます。DNAワクチンもmRNAワクチンと同様に新しいタイプのワクチンではありますが、化学合成で作製されるmRNAワクチンに対して、DNAワクチンは、大腸菌を宿主(ウイルスや菌類などが増殖するために寄生する細胞)として組み換えDNAを作製し、精製してワクチンの原液をつくることができるため、mRNAよりも製造期間を短縮することができます。このワクチンは4月6日から第Ⅰ相臨床試験が開始されており、またイノビオは、2012年に流行したコロナウイルス感染症であるMERS(中東呼吸器症候群)のDNAワクチン「INO-4700」を開発してきた経緯があるため、今回のワクチン開発にはその技術が応用されているのではと期待が高まっています。実用化についてはこちらも1年以上かかると見込まれています。

今取り上げたワクチンの他にも、中国の軍事科学院軍事医学研究院が開発を進めているワクチンが、3段階ある臨床試験のうちの2段階目となる第Ⅱ相臨床試験に世界で初めて進んだなどの発表があり、今急ピッチで世界各国の医薬品メーカーが新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組まれているようです。

では続いては、治療薬について紹介していきます。
まず1つ目は、日本の富士フイルム富士化学が2014年に新型インフルエンザ治療薬として承認を受けた「アビガン(ファビピラビル)」という治療薬です。アビガンは、ウイルスのRNA( DNAがもつ遺伝情報をもとにタンパク質を合成する)の複製に必要なRNAポリメラーゼ(RNAを合成する酵素)を阻害するという働きをもっており、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスは同じRNAウイルスであるということから、効果を示す可能性があると期待視されています。実際に、中国の医療機関で行われた臨床試験で新型コロナ感染症に対する治癒効果が認められたと発表されました。これを踏まえた上で、先日の安倍内閣総理大臣の記者会見では、「アビガンはウイルスの増殖を防ぐ薬であり、十数例で投与が行われた際に症状の改善が見られた」と述べられ、今後は臨床研究を拡大し薬の増産をスタートさせるとともに、新型コロナウイルスの治療薬として正式に承認するための治験プロセスを開始すると発表しました。そんな今最も期待の高まる治療薬アビガンですが、1つだけ注意が必要な点があります。それは妊娠している方には使用できないということです。動物実験において催奇形性が確認されたため、このことは十分に注意していただきたいです。

2つ目は、アメリカのギリアドサイエンシズがエボラ出血熱の治療薬として開発を進めていた「レムデシビル」という薬です。レムデシビルは、先ほどの「アビガン」と同様にウイルスの複製に関与するRNAポリメラーゼを阻害する働きがあり、試験管内での実験を行った結果、ウイルスの活性を抑えるということが明らかになりました。また、新型コロナウイルス感染症の重症患者53人を対象に投与したところ、約7割の患者に臨床的な改善を示したという報告もあることから、現在承認に向けて、各国が共同し実用化を目指した臨床試験が進められているとのことです。

治療薬においても今取り上げた薬の他に、抗HIV治療薬を新型コロナウイルスの治療に応用したり、気管支喘息の治療薬を投与したりと、既に承認を得た薬から有効な薬を探し出そうという動きが進んでいます。実用化までに多くの時間がかかる新薬の開発に対して、既存治療薬は承認を待つ必要がないため、その分早く実用化できる可能性があると見込まれ、今後さらに期待が高まるのではないかと思われます。

さて、ここまで新型コロナウイルスのワクチン・治療薬の開発状況について説明してきましたが、これまでのワクチンや治療薬の開発において、大きく取り上げられているのはほとんどが海外製薬会社で国内製薬会社は存在感に乏しい、と感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、世界中で新薬の研究開発の能力があるのは先進国の中でも一部の企業に限られているという現状がありますが、今回の新型コロナウイルスの新薬開発で注目されている主な企業の中に、日本の大手製薬会社の名前は挙げられていません。国内でも、開発に積極的な企業や臨床試験に着手し始めている企業は多く存在しますが、世界と比較すると少し遅れを取っているといっても過言ではありません。ではなぜ、日本企業の影が薄いのでしょうか。それは、そもそもの日本の製薬企業の多くがワクチンの研究開発基盤を多く有しておらず、加えて重点疾患領域から感染症を外しているということにあります。つまり、治療薬やワクチンの開発に乗り出す日本の企業はごく一部ということです。皆さんは、「製薬はビジネス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。感染症には「流行」がつきものであるため、ワクチンや治療薬の開発を終えた頃には流行が終息しているという可能性が高いのです。開発に多くの時間と費用を費やしたにもかかわらず「ほとんど売れない」となってしまえば、製薬会社が受ける代償はとても大きいもので、当然ながら、研究開発費用が集まらない場合は開発を断念せざるを得ないというリスクがあります。新型コロナウイルスの感染者が急増する今、ワクチンや治療薬の完成がどれほど私たちを安心へと導いてくれるかは計り知れませんが、このような背景があることを理解した上で、今後のワクチンや治療薬の開発に期待を込めて見守っていくことが必要なのではないかと思います。

最後になりますが、今後の新型コロナウイルスのワクチン・治療薬の開発事業はさらに発展し、種類も増えていくことは間違いないでしょう。そんなワクチンや治療薬の開発に期待が高まることとは思いますが、今私たちにできることは、終息に向けてそして一人一人が危機感と自覚を持つことであると考えます。自粛の日々に気力が落ち、気が滅入ってしまうこともあるかと思いますが、こんな時だからこそ思いやりや感謝の気持ちを忘れず、また普段はなかなか多く取ることのできない自分自身や家族との向き合う時間を大切にされるのも良いのではないでしょうか。今こうしている間も、感染する恐怖と闘いながら治療に当たっている医療従事者、感染に関する相談や検査などを行っている保健所職員、清掃業務や交通インフラ維持のためエッセンシャルワーカーと呼ばれる社会を回すのに欠くことのできない大勢の人々が日々奮闘し尽力してくださっています。このことを忘れず、繋がっていなくとも感謝の気持ちを持ち、互いに支え合いながら今回の危機を乗り越えていく気持ちが重要だと感じている今日この頃です。まだ先は見えませんが、終息に向かうことを願うとともに、まずは自分を、そして自分の行動で周りの人たちを守る!このことを1番に考え、行動に移していきましょう。

参考文献

1日本SMO協会HP 治験とSMO 〜くすりができるまで〜http://jasmo.org/ja/business/flow/index.html

2製薬業界で話題のニュースがよくわかるAnswers News  新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめhttps://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/

3“Designing immunostimulatory double stranded messenger RNA with maintained translational activity through hybridization with poly a sequences for effective vaccination”  Biomaterials.2018 Jan;150:162-170.

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以上、今田さんのレポートでした。

今後も、ブログを通じて有益な医学的情報を提供して参ります。宜しくお願い致します。